動物看護師の仕事はきつい？危険？汚い？11年働いた元動物看護師が現場のリアルを解説

令和元年に「愛玩動物看護師法」が制定され、令和４年度から施行されました。

2023年２月に第1回の「愛玩動物看護師国家試験」が行われ、今後ますます注目が集まる仕事です。

しかし、知っていますか？

動物看護師は非常に離職率が高い仕事です。

実際に、動物看護師専門学校の同級生50名のうち8割が1年以内に離職。

10年以上働いている動物看護師は3.4人しかいません。

離職率が高い理由のひとつに、３K（きつい・きたない・危険）があげられます。

他にも理由はあるけど、そんな動物たちに寄り添いたいと思ったのも、私が動物看護師になりたいと思った理由の1つです。動物看護師、と調べると、｢3K｣などと出てきます。｢汚い｣｢臭い｣｢危険｣｢給料少ない｣などと。確かにそうです。給料少ないは、仕方ないことです。けど、他の3つはどうですか？

— たけタケ (@TaaaKE_24335) March 15, 2018

動物病院で１1年勤務した元動物看護師が、現場での実体験と一般社団法人 日本動物看護職協会が２０２０年７月１日に発表した、動物看護師の勤務実態に関するアンケート調査（以下、アンケート調査と称す）とともに解説します。

動物看護師になりたい方や現在働いている方は、ぜひご一読ください。

多くの人にリアルを知ってもらうことで、動物看護師として働く人の環境が少しでも改善されることを祈っています。

資格なしでも動物病院で働ける？の記事はこちら↓

①動物看護師がきついと言われる5つ理由

動物看護師はきついです。

ここでは、アンケート調査で「今後、動物看護師として働き続けたいですか？」という問いに「働き続けたいと思わない」と回答した理由と元動物看護師が考える理由の合計5つの理由を解説します。

①職場の人間関係がきつい

全国に12,000以上の動物診療施設がありますが、多くを占めるのは

獣医師1人＋看護師2名

獣医師1名＋看護師3名

であり、小規模な動物病院がほとんどです。

チェーン展開している病院でなければ転勤もなく、同じ風景に同じメンバーでほぼ一日の時間を過ごすという閉鎖された環境です。

職場の雰囲気がよければ耐えられますが、皆1人の人間であり、365日善良な人間でいられません。

いったん何か問題が起こると少人数なので一気に病院全体の空気が悪くなります。

動物看護師間はもちろんですが、残念な話ですが獣医師によるハラスメントもあります。

女性、男性という理由での不当な処遇は？という問いに対して、割合としては7.8パーセントと低いものの性別による不当な処遇を受けたことがある、と97人もの動物看護師が回答しています。

Q．２８ 女性、男性という理由での不当な処遇は？

性別による不当な処遇を 受けたことがある	97 人	7.8%
受けたことはない	1144 人	92.2%
	総数 1241 人

引用：動物看護師の勤務実態に関するアンケート調査

②給与面がきつい

アンケート調査では、給与面に対して半数以上が不満を感じています。

結果は以下の通りです。

動物看護師の月給

15～20 万円未満が 39.1%

20～25 万円未満が20.8%

12～15 万円未満が13.1%

12 万円未満2.3%

引用：動物看護師の勤務実態に関するアンケート調査

女性で20～24歳の学歴別の賃金はこちらです。

　高卒19.9千円

専門卒21.4千円

大卒22万9千円

引用：令和３年賃金構造基本統計調査より

アンケート調査により動物看護師は15～20 万円未満が多くを占めていることから、動物看護師の給与は低いと言えます。

③待遇面がきつい

アンケート調査による動物看護師の勤務日数、労働時間はこちらです。

上位2つを抽出しています。

・勤務日数

5日53.2%

5.5日16.4%

・労働時間

8～9 時間未満26.1%

9～10 時間未満19.0%

引用：動物看護師の勤務実態に関するアンケート調査

動物看護師は、動物の命を預かる仕事であり、命には休みがありません。

一般的な皆さんは休日の土日でも昼夜問わず、動物は怪我をしますし病気にもなります。

なので、動物看護師は土日は関係ありません。

病院が休診日だとしても、入院患者はいるし、急患の連絡が来ます（対応できるかは動物病院によります）。

スタッフの数が少ない小規模の病院では、緊急手術が入れば残業することもあります。

勤務時間が長くなるほど、給与の金額に対して割に合わないと感じることもあるでしょう。

アンケート調査による動物看護師の社会保険の加入率の結果

健康保険に加入75.1%

厚生年金に加入75.7%

労災保険に加入72.4%

雇用保険に加入91.0%

引用：動物看護師の勤務実態に関するアンケート調査

社会保険の加入率の情報について調べると、国土交通省が発表する公共工事に従事する建設労働者の社会保険加入状況についての調査結果がありましたので、こちらと比較します。

国土交通省が発表した公共事業労務費調査（令和元年10月調査）

労働者別社会保険加入状況調査結果

労働者別

健康保険に加入92%

厚生年金に加入89%

雇用保険に加入94％

引用：社会保険加入の最新状況と今後の対応方策

労災保険のデータは見つけられませんでした。

雇用保険は多くの動物看護師が加入していますが、その他保険に関しては３割ほどの方が加入できていません。

国土交通省が発表した公共事業労務費調査が発表している3保険の加入率に比べて低いことがわかります。

⑤仕事内容がきつい

救えない命がある

動物医療は魔法ではありません。

どんなに手を尽くしても目の前で消えてしまう命もあります。

動物看護師を志す人は間違いなく動物が好きな方でしょう。

お世話をしていた子が力尽きてしまう瞬間は悲しいものです。

他にも、治療をしないという選択をする人もいます。

動物病院はボランティアではありません。

動物は人と違い保険が義務化しておらず、治療費が高額になってしまうこともあります。

治療さえ受ければ助かるのに、という子がいても治療費を払ってもらえなければなにもできません。

どんなに動物看護師が知識や技術を磨き、完璧に獣医師をサポートしても、動物病院では何度も「死」を目にすることになり「つらい」と感じることもあるでしょう。

ミスが許されない緊張感と責任感

相手が動物といえども、小さなミスが動物の命に影響を与えることがあります。

獣医師に指示された薬や手術の準備など医療的なものから、入院室の鍵のかけ忘れなど行動の一つ一つが命に関わります。

動物看護師は常に行動に緊張感や責任感をもたなければなりません。

常に勉強

日々医療は進化しており、新しい薬や治療法が生まれています。

そのため医薬品メーカーやペットフードメーカーから講師を招いて勉強会をしています。

専門学校で学んだ知識だけで足りることはなく、現場で働き始めてからも勉強の日々が続きます。

大規模の動物病院であれば、専門医がいますが、一般的な小規模動物病院では内科も外科も、時には小児科などもすべて診察します。

医療について勉強するのは獣医師ですが、獣医師がやろうとしていることを先回りしてサポートするにはある程度の知識を頭に入れておく必要があります。

⑤プライベート面がきつい

年頃の女性には悲しいお知らせです。

動物看護師に動物好きが多いように、動物看護師も好きな相手には動物好きでいてほしいと思う方が多いと思います。

動物病院では出会いがありません。

ペットを連れてくるのは女性が多いです。

男性が来たとしても、彼女の付き添いだったり、既婚者であったりします。

獣医師は開業の時点で妻帯者になっている場合が多く、実習にやってくる獣医学生は同じ獣医学部の彼女がいます（そのまま結婚する場合も多い）。

ですが、奥さんが動物看護師という獣医も少なからずいますので希望を捨てることはないです。

最近は、動物好きと出会えるという便利なサービスもあるので、動物看護師も結婚も諦めたくない方は積極的に利用してください。

動物看護師は出会いがないという記事はこちら↓

動物看護師は危険？

動物看護師は危険な目に合う可能性があります。

ここでは３つの危険についてお話しします。

①大きなけがをするときがある

動物病院にやってくるペットたちが皆あなたのペットの様に友好的とは限りません。

怖がりな子の他にも、人からひどい目にあわされた野良猫、病気による脳の障害がでて意識がとんでいるペットは、あなたに本気で攻撃してきます。

もちろん、口輪をしたり、洗濯ネットに入れたり、厚手の手袋をするなど対策はできます。

しかし全身を完全に防御することはできません。

ごりごりに防御するとこまやかな保定（獣医師が処置をするために動物を抑えること）もできません。

動物は私たちでは対応できない速さや、隙をついて攻撃してくることもしばしばあります。

ひっかき傷は日常茶飯事。

皮膚をかみちぎられたり、指の骨が変形したり、顔に傷が残ったり、数針縫うほどの私も、同僚も何度もしています。

そしてその痕跡は３年たった今も残っています。

動物看護師には危険が伴います。

妊婦がトキソプラズマ症に感染する可能性がある

トキソプラズマ症とは、トキソプラズマという寄生虫によって感染する病気です。

トキソプラズマに感染した猫の糞尿から感染することがあります。

妊娠中に初めて感染することで赤ちゃんの脳や眼に障害が出て、最悪の場合、流産や死産する可能性がある病気です。

母子感染の確率は妊娠初期で20～30％、妊娠後期では60～70％であり、治療薬もあることから過度に心配する必要はないかもしれませんが、女性がほとんどを占める動物看護師という職に従事したいと考えたら、頭に入れておきたい情報です。

③自分のペットにも危険が及ぶ可能性がある

危険性は自分だけではありません。

あなたのペットにも危険が及ぶことを知ってください。

動物病院には、感染症のペットもやってきます。

例えば、ペットショップで大量感染をおこし、致死率の高い「パルボウイルス感染症」。

ワクチンを打つと防げる病気ですが、子犬を買い始めたばかりで、まだ病気に対する抗体が完全ではない場合は感染する可能性があります。

他にも、「猫白血病ウイルス感染症（Felv）」「猫免疫不全ウイルス感染症（FIV）」は一度感染するとなおることはありません。

ワクチンがありますが（FIVワクチンは製造終了となり、流通している分のみになります）、完全に防ぐことはできません。

動物看護師はきたない？

動物病院はペットが病気やケガをしたときに連れていく場所です。

動物看護師は動物のお世話をしますので、便や尿の始末は当たり前です。

処置をする際に周りが糞尿まみれになっても、ペットの命を救うために動物看護師は保定する手を緩めることはできません。

制服から下着まで染みても処置を終え診察室から患者さんを送り出すまでそのままです。

一日に2回着替えるなんてよくある話で、スタッフは5着以上は替えの制服を用意し、ロッカーには下着の替えも常備しています。

糞尿だけではありません。

外耳炎の耳のにおいは中々強烈ですし

交通事故にあい皮膚が切れ骨が露出状態でやってきます。

外で飼育されている老犬に褥瘡（床ずれ）ができ、傷口にハエが産卵しウジ虫がわきます。

外科手術では、臓器は当たり前ですし、胃や腸内の汚い未消化物を目にすることもあります。

汚いものを浴びるのも見るのも動物看護師は日常茶飯事です。

動物看護師をやめたくなった時の対処法

今まで述べてきたように、動物看護師の仕事は大変で「やめたい」と考えることは何度もありました。

そんな時は以下のことを考えてみてください。

順番に解説します。

①別の病院で動物看護師を続ける

動物診療施設の多くが小規模の動物病院ですが、動物看護師として働き続ける場合はこんな就職先があります。

• 大規模動物病院
• 大学付属の動物病院
• チェーン展開している動物病院

動物看護師としての仕事を続けたい方には、別の病院へうつることもできます。

職場が変わると、給与や待遇面はがらりとかわります。

動物の飼育数が増えるとともに、動物病院も増えていますので、動物看護師をやめたいと思ったときには、他の病院の求人情報をのぞいてみてはいかがでしょうか？

②動物看護師としての経験をいかしつつ、職種を変える

動物看護師としての経験を生かすなら、以下の選択肢があります。

• ペットショップ
• ペットフードメーカー
• 動物看護師専門学校の講師
• ペットシッター

動物看護師は専門性のある仕事ですので、動物病院以外でも経験や資格を生かすことができます。

更に動物愛玩飼養管理士など動物に関する資格を勉強しておくと、動物についての知識が増えてスキルアップにつながります。

また、動物取扱責任者になるために必要な要件の1つなので、将来的に動物関係の仕事を開業する時に役に立ちます。

私は専門学生時代に取得しました。

↓動物愛玩飼養管理士の勉強を独学するなら

③業種を変える

様々な事情で動物看護師を諦めなくてはならないこともあります。

実際私も夜勤がある転勤族の旦那さんと保育園児の娘がおり、実家から遠方の場所に住んでおり援助も見込めないため、動物看護師を諦めました。

現在は、動物看護師時代に勉強したパソコンスキルで一般事務の仕事をしています。

パソコンを使わない動物看護師でも事務職で働けた勉強方法はこちら↓

動物看護師の３つ魅力

色々と動物看護師のつらい話ばかりしましたが、アンケート調査で「非常に感じている」と「ある程度感じている」を合わせると86％の動物看護師がやりがいを感じており、働き続けたいという人は78％もいるんです。

アンケートによる動物看護師の魅力上位２点と、更につけ加えてお伝えしたい魅力は以下の通りです

①動物に関わる仕事である

動物看護師を志す皆さんが大好きな動物にたくさん会える職場です。

時には図鑑でしか見たことのないようなめずらしい種類の動物と出会えることもあります。

限られた時間しかみられない子猫、子犬時代。どんどん来院するたびに大きく成長する姿に親心を感じたり、警戒せず、飛び込んできて顔を嘗め回してくる子。

日々緊張感や責任感で張り詰める職場ですが、可愛い動物たちに日々癒されます。

②専門性の高い仕事である

動物看護師は専門性のある仕事です。

獣医療は年々発達し、動物看護師には専門的な知識が要求されます。

そのため動物病院では定期的に勉強会などを行い、常に成長していかなければなりません。

多忙な獣医師が見逃した症状に気が付き報告した結果、その子の命を救うこともありました。

こんなときは本当にやりがいを感じます。

勉強は大変ですが、専門的な知識は財産になります。

転職の際にも動物看護師として働いた経験はあなたの武器になるでしょう。

③仲間ができる

動物看護師のきつい理由に人間関係がありますが、いいこともあります。

それは仲間の存在です。

動物看護師の仕事は専門性が高く、また患者さんの情報ついて守秘義務があるため、友人や家族に多くは語れません。

しかし、家族よりも長く濃い時間を共に過ごしてともに戦ってきた仲間となら、苦しみや嬉しさを分かち合うことができます。

実際、私は在職中に何度も「やめたい」と思う状況がありましたが、そのたびに同僚が深く話を聞いてくれ、時には上司に意見してくれたこともありました。

現在では、職も移住地もかわったしまった私たちですが、時折連絡を取り合い、心の距離は働いていたころとは変わらないままおしゃべりを楽しんでいます。

大変な職場ではありましたが、彼女とともに戦い抜いたからこそ生まれた絆だと思っています。

彼女と出会えたことは動物病院で働くことで得た財産だと思っています。

まとめ

以上について現場のリアルとともに解説しました。

動物病院でよくみる動物看護師の笑顔の裏側にこんな苦労があると知っていただけたでしょうか？

長年の悲願だった動物看護師が国家資格になりました。

元動物看護師として、動物看護師が世間に広く認知されることをとてもうれしく思っています。

国家資格になることにより労働環境が見直され、一人でも多くの動物看護師が仕事を続けられる職業になってほしいと願っています。